「初入選から生まれた使命感」

 

宮城県仙台市出身の私が、染色着物作家になりたくて京都の美大へ入学した春、「日本染織作家展」を父と二人で観た。それが、京都で初めて出逢った染織の展覧会であった。

 街中を彩っていた桜のように、陳列されていた着物は輝く程に美しく、まだ布を染めた事もない当時の私は、大きな感動と共に強い焦燥を覚えたのを記憶している。そして「いつの日か、私もここに並ぶような一流の着物作家になりたい!!」と頬を上気させ父に告げたのだった。

 あれからX年、私はこの春その夢を実現させたのである。

今回、初出展、初入選させていただいた訪問着「夕紅(ゆうくれない)の園」は、バラの花を幾何学形態に置き換え、形で見せるグラデーションをテーマにした型染め作品である。これは自分のアトリエで染めたものだ。

 三月十一日東日本大震災が起こり、実家が直撃された。三日間家族と連絡が取れぬ不安の中で、泣きながらこの着物を染めた。

 はじめこのバラは、鮮やかなパッションピンクであった。しかし家族と音信不通になり、ストレスもピークとなった二日目、一気に夕紅に染め変えた。幼い頃、母のご飯が恋しくて、家路を急ぐ途中に見た夕紅の空の色である。「どうか家族を!!故郷をお守りください!!」染める作業は、次第に祈りへと変わってゆき、私の心も少しづつ静められていった。

 この原稿を書いている最中、宮城はまた震度六強の地震に見舞われた。私のふる里が元の生活を取り戻すには、かなりの時間を要するだろう。今の私に出来る事は、この京都で日々着物作りに精進し、仙台を代表する染色着物作家となり、その活気を東日本に運んでゆく事だと思っている。 

 憧れの展覧会における初入選は、私に次なる目標と大きな使命を与えてくれたのである。

 

                                 (プライバシー保護のため、原文を一部変更しております。)